歌词
それはほんのわずかな瞬間だったような気がする。
はっと意識を取り戻した僕の前に、あの少女が立っていて、「こっちよ」と言いながら歩き出した。
「ここは。。。」確かについ先ほどまでは刑務所の前にいた。
ところが、いつの間にか木々に囲まれた墓地の前にいた。
兄は墓参りをしているのかと思って、少女の後を追った。
「おい、待ってよ!」
僕の声には耳を貸さず、少女はどんどん奥の方へと足を進め、ある墓石の前で止まった。
「ここよ」という少女の言葉に僕は戸惑った。
両親の眠る墓かもしれないと思ったが、その前には誰もいない。
どういうことだ、苛立つ僕に少女は「お兄さんもここにいるの」と言った。
僕ははっとした。
「まさか。。。」
墓石にすがりつき、目をよく凝らすと、確かに父と母の名前が刻まれていた。
そして、その横に並ぶ兄の名前を見つけた時、僕は愕然として膝を落とした。
「なぜ、なぜなんだよ。。どうして、兄貴まで死ななきゃならないんだよ。」
呆然とする僕に、少女が言った。
「お兄さんはお母さんを看病しながら一生懸命働いたの。
あなたのことも必死に探したの。
でも、無理をしすぎちゃってからだを壊した。
それでもあなたを探すことを止めなかった。
お母さんがなくなった後、たった一人の肉親だからって言って。
そして、あの夜ついにあなたを見つけた。」
少女の言葉にあの夜の出来事が一瞬にして蘇った。
僕の名前を叫び続ける兄の声が頭の中を駆け巡る。
その声から逃げ出した自分に対する後悔の念と絶望感に胸が張り裂けそうになった。
「うわあああああー」
僕は叫びながら、のたうちまわるように墓の前で転げまわった。
兄を殺したのは僕だ、母だけでなく、兄さえも。。。
「うわあああああー!!!」
地面に何度も頭を打ち付けた、血がとくとく流れ出すのも構わずに。
そのままうずくまっていた僕はあることを思いたって、ふらりと立ち上がった。
みんなが死んで、こんなろくでなしが生きている道理はない。
もう僕には生きている価値さえない。
ふいに少女が「死ぬの?」と言った。
僕はぽつりと答えた。
「俺の勝手だろ、もうほっといてくれ。」
すると少女は一通の封筒を差し出した。
それは僕宛の兄からの手紙だった。
僕はあっと息を呑むと、急いで封を切り、震える手で手紙を読んだ。
元気にしているか。
お前の出所の日までは頑張ろうと思ったが、どうやら間に合いそうもない。
恐らくこれが最後の手紙になると思う。
少し無理をしすぎたせいかもしれない、直接会って話したかったが、お前は面会に応じてくれなかったしな。
だから、ここで言う。
お前にはいつも辛い思いをさせてきてすまなかった。
その償いもせず、そしてお前を一人にしていく俺も許してくれ。
ただ、俺の分まで精一杯生きてほしい。
後、父さんと母さんのことも許してやってくれ、口では何を言っても、それは全部お前のためだと信じていたからなんだ。
それと、最後にひとつ、お前はまだ自分のことがわかっていない。
お前には十分な可能性と未来がある。
それを忘れるな。
頑張ればできると信じている、俺のたった一人の肉親だから。
いつでも見守っている、絶対に幸せになれ。
愛する弟へ。兄より。
手の震えが止まらなかった。
すると封筒の中から、するりと何かが落ちた。
慌てて拾い上げると、それは僕名義の預金通帳だった。
そばに印鑑もおちしている。
震える手で通帳を開くと、印字してある数字にぎょっとした。
「一。。千。。万。。」思わず墓石にしがみ付き、泣いた。
「なんだよ。。。どうしてだよ。。。どうしてこの金を自分のために使わなかったんだよ。。。
俺みたいなくずのために残したって、意味ねえよ。。。
なんでそうやっていつも自分を犠牲にするんだ?
俺みたいな。。。俺みたいな奴のために。。。」
涙があふれて止まらなかった。
声がうわずって、それでも声を振り絞って泣いた。
「兄さん。。。あああああああああー」
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