歌词
狭い庵の中を春の香りが吹き抜け
どこからともなく鶯の鳴き声が聞こえてくる。
それとともに開け放たれた障子戸から風に乗って一枚の桜の花びらが舞い込み、
俺の枕元に落ちた。
刀を売り、山を帰って住むか。
寝床に横たわってまま
庭先に咲く満開の桜を見守りながら
俺は自分の仕事が終わったことを感じていた。
大島口での戦いから10ヶ月後、
俺は下関郊外にある小さな庵で病の床についていた。
大島口に続き、小倉会場での戦いに勝利し、
幕府側の重要拠点小倉城の攻略も果たしたものの、
俺の体はもはや戦場に立っていられるものではなくなっていたのだ。
だが、長州軍の勝利が続いたため、幕府の威信が揺らぎ始めた。
そして、俺が抜けた後も長州は各地の戦いで勝利を収め、
ついに幕府側から和睦の申し出を受けるまでにいたっていた。
結果、
幕藩体制の崩壊は急激に加速し、
昨今では将軍が朝廷へ政の返還を行うという噂まで流れているらしい。
「結局、すべては歴史通りに進んだってことか」
半身を起こすと俺は枕元に置かれた三味線に手を伸ばし、
軽く弦を弾いた。
だが、放たれた音はなんとも弱弱しいものだった。
この痩せ衰えた体ではすでに三味線を弾く撥を持つ手にすら力が入らなかったのだ。
「やれやれ、この様じゃもう酒も飲めそうにないな」
俺の体を蝕む結核の進行は予想外に早く、
もはや回復の見込みはないようだった。
咳と吐血を繰り返し、
布団に寝たきりで自由に動くこともままならぬ身だ。
しかし、そんな体になっても、
なぜか心は清清しかった。
嘘ではない。
僅か3年あまりだったが、
十分に面白い人生だった。
あの黒衣の老人には感謝してもいいくらいだ。
ふと、人の気配を感じて、俺は視線を庭先へと向けた。
そこに立っていたのはあの老人だった。
「まだあんたに会えるとはな。こんな風になった俺でももとの時代に戻れるのか」
皮肉めいた言葉を吐いた俺に、老人は静かに告げた。
「戻る必要はなかろう。おまえさん
真実かどうかはどうでもよかった。
ただ、そう考えると、なんと愉快なことか。
「面白きこともなき世を面白く」
そう呟きながら、俺はゆっくりと目を閉じた。
満面の笑みを浮かべて。
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