歌词
目を開けると、俺はなぜか畳敷きの部屋に倒れていた。
ふすまと障子戸に囲まれ、天井に梁のある古い日本家屋の一室だ。
しかもいつの間に着替えさせられたのか、
服が着流しへと変わっているのではないか。
「何が起こった」
なんとか思い出そうとするものの、
記憶が混乱しているのか、思考が定まらない。
と、俺はさらなる異変に気付いた。
逞しい腕に鍛え貫かれた体。
見知ったはずの自分の体つきが、まるで別人のものに思えるのだ。
まさかあの老人に幻覚でも見せられているのだろうか。
その時だ。
「晋作さん、よろしいでしょうか」
障子戸の向こうからこちらに呼びかける声が聞こえた。
「晋作さん?」
訝しがりながらも、障子を開けると、
俺は一瞬その場に立ち尽くしてしまった。
そこに立っていたのは、羽織袴を着て、髷を結った侍姿の若者だったのだ。
「晋作さん、藩主様がお呼びです、急ぎ搭乗の支度をなさってください」
そう言ってこちらを見る若者は、
格好といい、言葉使いといい、とても現代人には思えなかった。
しかも自分は長州藩の殿様の使者で、
俺を迎えにきたのだという。
何より驚いたのはどうやら俺のことをあの高杉晋作と信じきっているらしい態度だ。
まさか高杉晋作の生家を見たために、
こんな奇妙な夢を見ているのだろうか。
だが夢と判断するには、すべてがあまりにもリアルだった。
まあいい、思わず笑みが浮かぶ、俺は逆にこの時代に興味を持た。
夢であれ、現実であれ、どちらにしても面白い。
こうなったら、最後まで流れに乗るまでだ。
「分かった、すぐに支度する、ただ、その前に少し聞きたいことがあるんだが」
搭乗の準備をしようと背を向けながら、
俺は使者の若者に声をかけた。
羽織袴に着替えながら、
俺は晋作とは知己の間柄らしいその若者、
伊藤俊輔から藩主に呼び出された理由を聞き出していた。
彼の話によると、
攘夷倒幕を標榜する長州藩はその意思を天下に示そうと、
外国商船に攻撃をくわえたものの、
逆に同盟を組んだ欧米四か国の艦隊から反撃を受け、
存亡の危機に立たされているらしい。
そのためかつて上海に渡った経験があり、
奇兵隊の創設という実績もある晋作が、
講和条約を結ぶ全権大使として選ばれたのだという。
「夢でないとすれば、ずいぶんと面白いことになってきたもんだ」
詳しい話を聞かされながら、
俺は刺激を求める己の性(さが)が呼び覚まされるのを感じていた。
そして支度を終えて、迎えの籠を乗ろうと門を出たところで、
俺は再びその場を立ち尽くしてしまった。
「これは…」
屋敷の門構えは意識を失う前に見た晋作の生家のものと同じだったが、
目の前に広がる風景は、
明らかに記憶の中のものとは異なっていた。
あったはずのコンクリート造りの建物や舗装された道路はすべて姿を消し、
そこには百年以上前の木造の家屋が立ち並ぶ、
古い日本の町並みが広がっていたのだ。
どう考えてもセットには見えない。
こうなると理屈は分からないが、
俺は本当に幕末の長州藩士、
高杉晋作になってしまったと考えるしかないようだ。
「本当におもしろいじゃないか、わくわくしてきやがる」
ありえない光景を前に、
俺は戸惑いより先に武者震いを感じていた。
幕末の日本で歴史上の人物である高杉晋作として生きる。
これ以上の幸運があるだろうか。
まさに俺の追い求めていたおもしろおかしく刺激に満ちた人生だ。
そうやって腹を潜ると俺は迎えの籠に乗り込み、
藩主の待つ、山口の政治堂へと向かった。
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